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大阪高等裁判所 昭和29年(う)37号 判決

控訴人 被告人 横田菊治 灘義一

弁護人 宮阪浅治郎

検察官 志保田実

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人等の平分負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人横田菊治及び被告人両名の弁護人宮阪浅治郎各作成の控訴趣意書記載のとおりである。

弁護人の控訴趣意第一点について、

弁護人は、被告人横田菊治は、一個の犯行意図の下に昭和二十八年九月十二日から同月十五日までの四日間にわたり、株式会社東洋現像所の工場西偶に積み重ねてあつた鉛管屑合計約四十貫を窃取したものであり、被告人灘はその途中からこれに加担したものであるから、本件は一個の犯罪であつて併合罪でない、と主張するについて案ずるに、犯罪の個数を定める標準に関して、行為標準説、結果(又は法益)標準説、意思標準説等があるけれども、いずれも絶対的なものではなくて、立法の趣旨を勘案し、犯人の行為、日時場所の関係、被害法益、犯人の意思等の客観面及び主観面における具体的状況を綜合して、規範的に評価して定めなければならない。これを窃盗罪について言えば、単一の犯意に基き、接着した日時と場所とにおいて、同一の法益に対し、数回にわたつて、同種の行為をした場合には、客観的に見れば数個の行為であつても包括一罪と解し得られるが、前行為と後行為とが、行為の形態、被害法益、犯行の場所において同一であり、かつ日時において接近していても、犯人が新たな犯意に基き、別個の機会において行動した場合には包括一罪ではなく併合罪と観察するのを相当とする。原判決の挙示する証拠によると、被告人横田菊治は、昭和二十八年九月十二日から同月十五日までの間、毎日一回づつ、単独で二回、被告人灘義一と共謀して二回、いずれも、自分等の働き先である株式会社東洋現像所の工場西偶に積みあげてあつた同会社々長長瀬徳太郎管理にかかる鉛管屑合計約三十八貫三百匁を持ち出し窃取したものであるが、その状況を考察すると、被告人横田は、九月十二日単独で、切断した鉛管三本(約一貫三百匁)を工場外に持ち出し、九月十三日には、単独で同様の鉛管三本(約二貫)を一旦被害会社の工場外側へ出しておいて、前記の灘ほか二名の同僚を連れて行つて持ち帰り、九月十四日には、灘と相談のうえ二人でリヤカーを持つて行つて同様の鉛管十五、六本約(十五貫)を積んで持ち出し、九月十五日には、同様灘と相談のうえリヤカーに鉛管二十本(約二十貫)を積んで持ち出し、各窃取したものであつて、被告人等が当初から単一の犯意に基いて行動したものではなくて、そのつど犯意と機会とを新たにして犯行に及んだものと認められる。記録を精査しても、被告人等の犯意が単一であると認め得られるような証拠は存しない。

然らば、被告人等の本件犯行は、昭和二十二年刑法改正前の同法第五十五条に当るけれども、同条削除後においては、これを併合罪と解しなければならないから、これと同趣旨に出た原判決は正当であつて所論のような違法はない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第二点及び被告人横田菊治の控訴趣意について、

本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査し、被告人等の犯行の動機、態様、前科その他諸般の事情を考慮すると、原審の量刑は不当に重いとは言えないから、論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条、第百八十一条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 瀬谷信義 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

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